2014-08-29

糸子高倉健説

 カーネーション 完全版 DVD-BOX2

それにしても「カーネーション」の中年期の糸子、頑固で無愛想なおっさんになりすぎじゃなかろうか。
客商売なので店頭での外面は悪くないけど、家の中ではいつも仏頂面、晩酌の後はゴロリ。
毎日眉間に皺を寄せて夜中まで一人でミシンに向かっている仕事中毒。
自分を慕ってくれる異性は大切に思いながらも素直になれないツンデレ。というか他人に指摘されるまで思いに気づかない鈍感ぶり。

自分の信じる正義に対しては熱くなるが、興味がない事柄には冷淡。
自分と同じ職を選んだ長女と次女はよく面倒をみるが、テニス選手の三女には無関心。無視され続けて寂しかった三女は、結局プロテニスプレイヤーの夢を捨てて服飾の道を選んでしまうほどである。そもそも若い頃から糸子は子育てにほとんど関心なし。
画家ではなく洋裁師に進路を変更した長女と次女に「洋裁をナメるな、甘く見るな」と説教していた割には、それまで何の勉強もしていなかったズブの素人の三女を洋裁師にしてしまう。それまで絵の才能があるとか洋裁が好きだとか一切話に出てきてなかったような気がするんだが、どこかで伏線があったっけ?
専門学校に三日ほど通ってやめた三女は母の店、姉の店の手伝いをしているうちにあれよあれよのうちに世界的なデザイナーになってしまうのだからスゴい。ついでに不登校の孫まであっという間にデザイナーにしてしまうのだから、あれ「カーネーション」の世界ではこの道、結構甘い?

糸子にとっては自分ルールがすべて。
ルールに則っていれば多少の不条理や無理は通す。ただし自分ルールからハズれる事は一切認めない。
義理や人情に心が動く時もすべて糸子独自の信念のもとに行動するから、時にははた迷惑だったり見当はずれだったりする。

まあ、つまり、絵に描いたような頑固一徹の職人である。
小林薫おとうちゃんも形無しの意固地で偏屈なおっさんなのである。
更年期だとか空の巣症候群だとか糸子にも事情があるのかもしれないけれど、いくらなんでもやることなすことおっさんすぎる。
今回の再放送は途中から見たせいか、やたらと糸子の嫌なところが目について弱ってしまう。

ところが、中年期の糸子をもしも高倉健が演じていたら…と思うと何もかも気にならなくなるから不思議。

苦虫をかみつぶしたような顔でも健さんだからOK。夕食時に無口でも健さんだからOK。他人の心の機微に疎くても健さんだからOK。家族同様の従業員への態度が不器用でも健さんだからオールOK。だって健さんだもの。

実はもう一つ弱ってしまう理由があって、この後、糸子が似ても似つかない別人に変身してしまうのがツラい。いつもニコニコ機嫌よく岸和田弁に似たおっとりした関西弁で喋る明るく品の良いオバサマになってしまうのがツラい。

あの柄の悪い糸子はどこ行った。
あの不機嫌で偏屈なおっさん糸子はどこ行った。

そして、奈津以外、糸子のまわりの人間が何故か一新されてしまうのもまたツラい。
親世代や同世代の人々は亡くなっていても不自然ではないが、年下と思われる従業員や家族づきあいをしていた人達の子らとも絶縁しているのがツラい。全員死に絶えてしまったのか。

尾野糸子最終日から夏木糸子初日の間に一体何があったのか。
ここまですべて変わってしまうなんておかしいじゃないか。

そこで私は考えた。

尾野糸子はいったん商売の規模を大幅に縮小して、長崎の周防の元へ行ってしまったのだ。
いつものように決断してから話す糸子。まさか、とあきれる番頭二人。糸子から「堪忍! この通り!」とか頭を下げられクビになったかもしれない。で、「センセの好きなようにすればよろし」で二人とも店をやめるわけだ。
店には留守番役に住み込みの縫い子を置いておいて、長崎と岸和田を往復する生活。
当然町内には昔のことを知っている年寄りがまだまだ健在なので、「糸ちゃんなんでまた…」「やれやれ、オハラのオバハンようやるわ」といった具合に皆なんとはなしに遠ざかっていく。
一方、長崎で慣れない農作業についた周防は病に倒れ、糸子は最期を看取ってから岸和田に帰ってくる。
昌子も恵もいない。近所の人や親戚も寄りつかない。
しかし、最初で最後の恋を実らせ、介護から葬式まで済ませた糸子はスッキリ気分爽快、気力充実。娘達はすっかり有名なデザイナーになってくれたし、ウチもオハラでもうひと花咲かせるで。

……てな感じでいかがでしょう。

というわけで、頑固なおっさん糸子を見るのがしんどい時は高倉健で想像してみる今日このごろ。予想以上にしっくり。
老年期の糸子も健さんでいいと思う。ギクシャクと愛想のいい高倉健の姿が充分想像できる。
「あの、年をとってから女の人が一人でメシを食うのは、自分は、その、いろいろダメだと思うんです…」とかなんとか言って独身の中年女性を集めて会食したりね。クリスマスケーキのエピソードも泣けるよ。なんてったって健さんだもの。
で、老年期の奈津役には津川雅彦でどうよ。【み】