2014-06-20

泰蔵兄ちゃんの秘密の箱

再放送の「カーネーション」を途中から見始めました。
今朝は第65話「切なる願い」。幼なじみの泰蔵兄ちゃんが出征する回です。

大火傷を負って寝たきりの善作、普段は移動にリアカーを使うのに、今日は泰蔵の出征の見送りに自分の足で歩いていくと言う。家族もつきそいの木岡のおっちゃんも止めるが、杖をついてどんどん歩いていってしまう。
善作は"不細工"なことが大嫌いなので、子供の頃から可愛がっていた泰蔵に情けない姿を見せたくないのだ。

喫茶「太鼓」で行われていたささやかな出征祝いになんとか間に合った善作一行。
善作のボロボロ の顔を見て驚く泰蔵。「どうしたんですか?」
泰蔵は善作がボヤを出して大火傷をしたことを知らない。小原家と安岡家が断絶しているのを示す巧い作り。

しかし、だ。
泰蔵の商売は大工さんだよ。
いつも道具箱担いで颯爽と歩いているじゃないか。
大工が近所のボヤを知らないなんてありえるんだろうか。
小原の家ではボヤを出した後、すぐに畳を替え、割れた窓ガラスを入れてたじゃないか。男手のない小原家、普請だって頼んだかもしれない。
今は故あってつきあいを断っているけれど親戚同様のつきあいをしていた泰蔵に大工仲間が噂話をしないなんてことがあるだろうか。
しかも、安岡家は美容院だ。
「こないだ小原さんち、火事があったみたいね」とか客が八重子に話したりしないだろうか。

泰蔵兄ちゃんが担いでいる道具箱があまりにも軽そうなので、もしかしたらあの箱はカラッポなのでは…という疑惑があった。
そんな疑惑についに決着がついたのではなかろうか。
そう、やはり泰蔵が担いでいた箱は道具箱ではなかった。

泰蔵は大工ではなく大工のコスプレをしている人だったのだ。

次男は療養中だが、長男は大工、母と長男の妻は美容院で働いている安岡家。いわゆる3馬力で稼いでいるわけだ。
戦争中でパーマネントが禁止されたとはいえ、カットやセット、カラーリングをする客は幾らでもいるだろう。
こんなご時世だから家を新築する人は少ないかもしれないけれど、男達が出征している戦争中だからこそ、大工さんは結構忙しいのではなかろうか。

だけど、小原家と安岡家が断絶する前は、糸子が安岡家の食卓を心配する程に家計が苦しかった様子。
それはつまり泰蔵が大工として稼いでいなかったからではないのか。

ウィキペディアの「カーネーション」のページによると、だんじり祭の大工方を7年務めたという泰蔵。だんじりを愛するあまり、1年365日だんじり気分を味わいたくて、大工のコスプレで街を闊歩していたのだ。
泰蔵がいつも軽々と担いでいるあの箱には、大工道具ではなく、だんじりへの愛と夢が詰まっていたのである。

……というのは、まあ、言うまでもなく冗談なんだけど、泰蔵・八重子夫婦が小原家の火事や善作の大火傷を知らなかったのはやっぱり腑に落ちないよね。

本放送を見ていた私は、善作が命を賭けて叫んだ万歳に送られ、心を病んだ母と弟、妻と幼い子らを残して戦地へ赴く泰蔵が二度と岸和田に戻ってこないのを知っている。
泰蔵の美しい横顔が画面に登場するだけで、明るくて元気で朗らかな糸子の娘時代が思い出されたものだが、それも今朝でおしまいである。寂しい。

そして、物陰に隠れて初恋の人を見送る奈津の切なさ。
八重子より先に夫を戦地へ見送っている糸子は、「八重子さんと奈津、どっちがつらいんやろう、ま、どっちもやろうな」と存外乾いた声で独白するのがリアル。糸子は恋する女の気持ちも夫を愛する妻の気持ちも実感できないのかもしれない。【み】